「自己表現」から「相手への訴求」への転換

先週、「高校演劇Fair2009in草加」というイベントを見てきました。
2日間に渡って、越谷草加春日部松伏の7つの高校(中学校も1校)の演劇部の発表を堪能した。
それぞれいろいろ感じるところがあったが、松伏高校の演劇部員が自分たちでシナリオを書いた演目が印象に残った。
茶店のマスターを中心に、店員や常連客たちが自分の夢を語ったり雑談したりするドラマ。登場人物たちそれぞれのストーリーが同時進行する。
自分の役柄やせりふは自分で作っているっぽい。すごく自然だったから。
体調を崩して休んでしまった部員がいた。その人の代役は立たず、台詞だけをマイクで流していた。目には見えないがそこにいるはずの配役を相手に軽妙な会話が行われる場面が不思議な違和感で面白かった。たまたま幽霊ものの演目がほかに2つあったが、これも幽霊ものみたいだった。


獨協埼玉高校はレベルの高さを印象付けた。そもそも全員の台詞がはっきり聞き取れたのはこの学校だけだったかもしれない。


ところで、草加東高校が出場していなかった。予選敗退である。この草加東高校演劇部は越谷草加春日部沿線の高校演劇界でもっとも高い名声を誇っていると、ある筋から聞いていたから、予選敗退が意外だった。
後から調べたら、草加東高校演劇部の黄金時代は、顧問の小池豊先生の指導と先生自身による脚本によって築かれたらしいことがわかった。そして2008年3月を持って異動となったことも‥‥。
草加東高校演劇部にはなんとか頑張って欲しいと思った。


ではその小池豊先生はいったいどこに異動したのか。
秩父農工科学高校である。


秩父農工科学高校演劇部というのがまた県内どころか全国でも屈指の名門演劇部なのであった。
※ホームページ参照↓
http://www.chichibunoko-bh.spec.ed.jp/bukatu/bunka/engeki.htm
運動部や吹奏楽部だけでなく、演劇部シーンにも強豪校が存在するのである。


そしてその栄光の演劇部を33年間に渡って指導してきたのが顧問の若林一男先生だ。定年退職されて、現在は尚美学園大学で演劇をご教授なさっているとのこと。

そんな名門秩父農工演劇部が、若林一男先生を引き継ぐ指導者として、これまた実力者の草加東高校顧問を迎え入れ、栄光の歴史をさらに未来につなげようとしている‥‥。高校演劇シーン、これからも目が離せませんね。


ところで若林先生はまた全国各地の演劇部や劇団を回って、「治療」しているのでした。その活動内容がブログ「演劇のお医者さん(若林医院)」で知ることができる。
指導の重要なポイントとして印象深いのが「相手に入る演技」「相手に入る物言い」という概念。

少し演技のベースを確認させてもらったら、案の定、一番大切な台詞と気持ちの焦点が外に出てない。自分の内側に向いている。本番前に一番大切なこと。真面目な生徒ほど本番前はそうなってしまう。なので30分ほど調子出しをした。自分の内側のベクトルを諦めて、相手の顔、台詞に気を持ってゆく練習。自分にとらわれてる演技は、いつも同じ演技になるが、相手に入る演技は、毎回微妙に違う演技になる。この差は大きい。
http://tetsubin5.exblog.jp/12453111/

「自己表現」から「相手への訴求」にベクトルを転換すること。舞台芸術を志す者(阿波踊りも含めて)は、ここに次元を高める重要なヒントが見いだせるのではないだろうか。
(じつに)