旅芸人の記録

9月1日、キラさんが務める会社の方の結婚披露宴で演奏してほしいと、ほおずき連鳴り物部にオファーがあり、箱根にドライブしてきました。
メンバーは鉦が会長、大太鼓がNさんと僕、笛が柏のOさん、締太鼓がキラさんとAちゃん(本職は扇子)とMちゃん(本職は提灯)の7人にかわいさ担当としてキラさんの娘さん。


新郎が徳島出身なのです。当然徳島からご親族が続々と押しかけます。宴もたけなわというときに外から心が躍るお囃子が聞こえてきて「おや?」と思った直後に鳴り物が乱入。徳島の血が騒ぎつい踊り出してしまう披露宴参加者たち‥‥。という計算。サプライズ企画です。
本場の方にほおずき連の音を聞いていただけるチャンス。楽しみ、かつちょっと不安。


到着したホテルは古い木造の風情あるたたずまい。がやがやと玄関に入っていったら、フロントからちょっと冷たい対応をされてしまいました。みんな不満な様子。すると会長が「しょせん旅芸人なんてこんなもんさ」と平然とつぶやきます。
「旅芸人」か‥‥。
旅から旅のドサまわり稼業を続ける旅役者になったみたいな気分。あるいはテオ・アンゲロプロスの映画『旅芸人の記録』とかね。フロントさんの対応がむしろうれしくなってしまいました。


出番まで時間があったので、ご飯を食べようと散策しました。
途中に日帰り温泉があったので、そこで食事とお風呂にしました。
まずお風呂。次に食事。女性陣がなかなかお風呂から出てきません。やっと出てきたと思ったらだいぶ疲れているようでした。露天風呂が熱すぎたので、桶で湯を掻き出し、水を入れて冷ますという重労働をしていたのだそうです。
「お風呂に入る前に疲れちゃったわよ」


衣装も楽器や持ち物も準備OK。控え室から宴会場へと、迷路のように入り組んだ長い廊下を歩き、階段を上っていきます。宴会場の手前、階段の踊り場で出番の合図を待っていると、たまたま外に出ていた女の子達に見つかってしまいました。阿波踊りや! と大騒ぎ。「シー! 内緒だよ!」と制しましたが、女の子達はうれしがって大騒ぎ。
「団扇貸して」とせがまれて「この団扇でいっしょに踊ってね」とキラさんがほおずき連の団扇をあげました。
すると少女は「うちのお兄ちゃん元ごじゃへいやで」と言うではありませんか。
ご、ごじゃへい!? 徳島最大の有名連。緊張が走りました。よし力いっぱいやってやると撥を強く握りました。


担当者が現れて「お願いします」と促され、お囃子を奏でながらさきほどの女の子達を先頭に廊下を進み、宴会場に乱入しました。大喝采です。もうすでに踊っている人がたくさんいます。舞台に上がって見下ろすと若い人たちはほとんどみんな踊り出してしまいました。
「やっとさー!」「やっとやっと」というかけ声も自然に参加者たちから上げっていました。
踊りがうまい人たちは徳島からのお客様かもしれません。でももう徳島だからいいところを見せなくてはなんていう気負いは消えてなくなりました。めでたくうれしい場が盛り上がっている、それが旅芸人の喜び。


帰り道、夜の高速道路を飛ばしながら、車中では、喜んでもらえたね、すごく盛り上がったね、などと会話がはずみました。快い充足感です。
「このまま次の巡業先に行きそうな気分」とキラさん。
(じつに)